「もしもあなたの大切な方が亡くなってしまったとき、どのような形で見送りたいですか?」
亡くなった方を見送る方法として日本で主流なのは、お墓への納骨です。
しかし、最近日本でも希望者が増えているというお見送りの方法があります。
それは、「海洋散骨」。
お墓に納骨するのではなく、船から海に向かってお骨を撒くことで、「私たちを育んでくれた自然へと還る」ことを目的としています。
もともとはハワイで広く知られていましたが、日本でもだんだんと知られるようになりました。
海洋散骨の“自然に還る”という理念は多くの方の共感を呼び、現在では著名な方も選択しています。
たとえば、以下の動画は世界中で活躍していたハワイ・カウアイ島出身のサーファーのアンディー・アイアン(Andy Irons)氏を海洋散骨で見送った際の様子です。
2010年に開催されたワールドツアーの大会期間中に体調を崩し、その直後、出産を控えた美しい妻を残し32歳という若さで突然他界してしまったという彼。
散骨の際には多くの方が集まり、アンディー氏を見送りました。
このように、ハワイでは比較的馴染みのある文化となった海洋散骨ですが、まだまだ日本では馴染みがないという方も多いのではないでしょうか。
依頼をする方々はいったいどのような想いを抱いているのでしょうか。また、海洋散骨に携わる方々は、どのような想いを持って活動しているのでしょうか。
今回は、日本で海洋散骨を行なっているブルーオーシャンセレモニーの村田さんにお話を伺いました。
「継承者がいない」お墓不足を解消する選択肢の一つに
現在、海洋散骨の年間利用者数は、日本全国でおよそ1万人に達したと言われています。
詳しい統計は出ていないものの、その数字は年々増えていると想定されるのだそう。
海洋散骨を選択する理由について、村田さんは以下のように語ります。
「海が好きだった方や海にゆかりのある方の割合は多いです。ただし、お話を伺ってみるとお墓の問題を抱えている方も非常に多いです。
お墓に入れない、墓守をする継承者がいない、次の世代に墓の管理という負担を掛けたくない、などといった声をよく聞きますね」
海は、私たち人間にとって関わりの深い自然のひとつです。
「海を見ると落ち着く」「海が見たい」といった感情を引き起こすのも、水の音が羊水を連想させたり気持ちを浄化させる効果があるためと言われています。(参考記事:【取材】どうして海って見たくなるの?心理学の先生に聞いてみた)
海が好きだった方にとって「海に還りたい」という想いは、必然的な感情なのかもしれません。
しかし、一方で日本のお墓不足を背景に海洋散骨を選択する方が一定数いるのも事実のようです。
さらには、お墓があったとしても継承者がいないといった問題も挙げられています。
世代を超えた思い出の地になるハワイ
もともとはハワイで広まった海洋散骨。
現在では東京や沖縄でも行われていますが、ハワイにはハワイらしいサービスもあるのだそうです。
「ハワイでの散骨といっても、現地の方の散骨と日本人がハワイに渡って行なう散骨とではまた違います。日本人向けの散骨サービスは、日本国内で行なわれているものとほとんど同じです。
また、ハワイの文化を継承した追悼のフラダンスや生演奏、現地の宗教者(ハワイアン・ブレッシング:お清めをするカフー)が同乗するといったオプションを追加する方もいらっしゃいます」
葬儀の際の正装は、日本の場合は喪服が一般的です。一方、ハワイではアロハシャツやムームーを着用されることも。
このように、服装一つとっても文化的な違いがあるため、日本人向けの散骨サービスは現地の方が行なうスタイルとは異なるのです。
ただし、“郷に入っては郷に従え”のように、ハワイらしい文化を大切にしながらハワイでの散骨を行なう方もいるとのこと。
そのほか、会食を行なったりお酒を楽しんだりと、さまざまなプランやオプションを選択することができます。
また、村田さんが海洋散骨に携わった中で、もっとも思い出に残ったエピソードについても話していただきました。
「ハワイでは、幾度か海洋散骨を行なわせていただいています。
その中でもっとも印象に残っているのは、東京湾で海洋散骨を行ない、一部のご遺骨を大好きだったハワイで散骨された方ですね。
奥様とお嬢様、お孫さん達も一緒にハワイを訪れ、涙と笑顔がいっぱいのクルージングになりました。
さらに、お嬢様はかつてハワイで結婚式も挙げられていたので、そのご家族にとってハワイは3世代にわたる冠婚葬祭の思い出の地となりました」
暮らしを営んだ東京の地、そして大切な時間を過ごしたハワイの地でも散骨を行なう選択をされたご家族。
気持ちひとつで国境を越えたお見送りができるのは、海洋散骨ならではの魅力です。
大切な人を見送る選択肢に、海洋散骨を
海洋散骨に長い間にわたって携わり、想いを継承する村田さん。
村田さんと海洋散骨を繋いだきっかけは、あるエピソードでした。
「私が海洋散骨を知ったのは20代の時。白血病を発症した母が、海洋散骨を希望して亡くなったことがきっかけです。
母の死後から1年経って沖縄で遺骨の一部を散骨したのですが、その時に“海洋散骨という選択肢で救われる人がたくさんいらっしゃるだろう”なと感じました。
その後、ご縁があって海洋散骨の会社を起業することになって今に至ります」
自身の母親を亡くされるという経験から、海洋散骨の存在や込められた深い想いを体感したという村田さん。
その経験から、現在では日本で海洋散骨を希望する多くの方と想いを共有しながら働かれているのです。
また、村田さんは現在働く上で心がけていることを以下のように語ります。
「“グリーフサポート(遺族の心のサポート)”に重点を置いています。
散骨は故人の遺志に基づいて行われるケースが多いです。
ただし、そればかりではなく遺(のこ)された方の『故人を偲びたい』という気持ちや心の拠り所を求める気持ちに丁寧に向き合うことも大切なので、できる限りのサポートを心がけています」
お見送りの形のみにこだわるのではなく、心の拠り所となることまで考えサポートに回る村田さん。
スタッフが一丸となってサポートするのも、深い悲しみを抱えたご家族の方に対する精一杯の配慮なのだそう。
最後に、これから海洋散骨を知る方に向けてメッセージをいただきました。
「海洋散骨の魅力は、世界中がつながる海という自然資源の一部に還っていく雄大さにあるのではないでしょうか?
故人とつながりのある人達の手で大切な人を海に送るという体験は、きっと一生心の中に残り、生き続けることでしょう。
大海原への散骨は新しいスタイルのようですが、人類の原始的な弔(とむら)い方法であるともいえます。
遺骨の海外への運搬、手続き、生前予約、セレモニーのことなど、不安なことはなんでもご相談ください」
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今回は、日本にもだんだんと広まりつつある海洋散骨のお話をお届けしました。
海洋散骨も、日本の風習として根付いたお墓への納骨も、大切な方を見送るために古くから継承されている方法の一つです。
「もしもあなたの大切な方が亡くなってしまったとき、どのような形で見送りたいですか?」
この問いに対する「選択肢」のひとつとして、本記事が参考となれば幸いです。
取材協力:ブルーオーシャンセレモニー